【インタビュー】“ネイチャーポジティブ”をこの国の当たり前に。
JCIバタビアとの共同宣言が開いた、国際共創への一歩

“ネイチャーポジティブ”という言葉を聞いたことがありますか?
おそらく、知らない人がほとんどだと思います。

ネイチャーポジティブとは、失われつつある生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せていこうという考え方のことです。単に自然を守る(保全する)だけでなく、回復させる点に大きな特徴があります。

実は、日本でも国家戦略として掲げられており、2030年までにプラスに転じさせ、2050年までには完全回復を目指す世界共通の目標になっています。しかし、市民レベルにまで認知が広がっているとはまだ言えません。

この未開拓で重要な課題に挑んだのが、東京青年会議所の環境政策室です。
発足1年目の新しい組織でありながら、彼らは日本国内での実践運動を皮切りに、インドネシアのJCIバタビアとの“国際協働プロジェクト”にまで事業を昇華させました。

一体なぜ、彼らはネイチャーポジティブというテーマを選んだのか。そして、国内での試みがどのように国境を越えた協働へと広がっていったのか。国際プロジェクトから見えてきた世界像と得られた学びについて、理事の閑野 一樹さんにお話を伺いました。

─なぜネイチャーポジティブをテーマに選んだのですか?

【閑野】
一番の理由は、東京青年会議所だからこそ“最先端のテーマ”に挑戦したかったからです。

SDGsやカーボンニュートラルといった言葉は広く浸透してきましたが、すでに世の中に広まっているものを追うだけでは意味がありません。世の中をリードする団体として、未開拓の領域にいち早く切り込み、社会に必要な仕組みをつくっていくべきだと考えました。

実は、日本は世界から注目されるほどの生物多様性の宝庫です。奄美大島や有明海をはじめ、世界的に貴重な自然資源や絶滅危惧種を多く擁しています。しかし、その危機的な現状や重要性は、メディアや市民レベルまで十分に届いていません。誰も声を上げていないからこそ、「手遅れになる前に、私たちが先頭に立って動こう!」と強く思ったのです。

それに加え、地球上のあらゆる環境問題の土台にあるのが“生物多様性”です。豊かな森が育ち、CO2が吸収される循環も、すべてはこの土台があってこそ成り立っています。だからこそ、今すぐにでも生物多様性というテーマに向き合う必要がありました。

──なるほど。まだ広く認知はされていないけれど、今すぐに誰かが取り組まないといけない重要な課題だからこそ、ネイチャーポジティブに挑んだのですね。まさに、東京青年会議所のアイデンティティを感じます。

─2026年7月例会でも発表をされていましたが、国内では具体的にどのような取り組みをされたのですか?

【閑野】
まずは課題の本質を捉えるため、都内23区の公園に実際に足を運び、数時間かけて人々の行動を観察しました。そこで気づいたのは、多くの方が公園でリラックスしたり遊んだりして過ごしているものの、木に触れ合ったり虫を観察したりする人はほとんどいないということ。豊かな自然が足元にあるにもかかわらず、単なる“生活の背景”になってしまっていたのです。

この課題を解決するために立ち上げたのが、“東京JCネイチャーポジティブツアー”という体験プログラムです。単発のイベントで終わらせず、同じ親子に3回継続してご参加いただくことで、深みのある学びとフォローアップを重視しました。

①新宿御苑(自然観察と問題提起)

自然観察アプリを活用し、スマートフォンで撮影しながら植物の名前や特徴を探索。「なぜ絶滅危惧種が増えているのか」という背景や原因を子どもたち自身に考えてもらいました。

②大手町・ビル屋上農園(放置竹林対策と資源の循環)

社会問題となっている放置竹林の竹を切り出して自らプランターを作成。そこへ日本固有の種である枝豆を植えました。収穫して終わりではなく、乾燥させて次の種へと繋げる“命の循環ループ”を体験する取り組みです。

③サンシャイン水族館(技術を通じた環境保全の学び)

沖縄県恩納村と連携した20年にわたるサンゴ再生プロジェクトを学習。太陽光を再現した大量のLEDや、風で波を起こす屋内の工夫を見学し、「なぜサンゴの生息に光や波が必要なのか」を体感的に学んでもらいました。

正直に言うと、前例のない1年目の挑戦であり、世の中にまだ浸透していない概念だからこそ、「この方向性で本当に正しいのだろうか」という模索や不安は常にありましたね。

しかし、その不安を子どもたちが吹き飛ばしてくれました。大人は離れて見がちな自然に数センチまで顔を近づけて夢中で観察し、「親や友達、企業や行政にも今日知ったことを伝えたい!」と発信意欲を見せてくれたのです。目を輝かせる子どもたちの姿を見たとき、「やって良かった!」と強く感じました。

ー子どもの嘘のない素直な反応が直接見れると嬉しくなりますね。単発のイベントにせず3回連続にしたことで、子どもたちが持ち帰る気づきもより深まったのだと感じます。まさに次世代へと繋がる素晴らしい運動ですね。

─国内でのツアー後、なぜ世界に目を向けたのですか?またJCIバタビアとの事業連携に至った背景も教えてください。

【閑野】
一番の理由は、日本と世界とでネイチャーポジティブを巡る事情がどう違うのかに興味があったからです。また、東京で実施したツアーの取り組みを海外へ発信し、客観的なフィードバックを得ることで、ツアー内容をブラッシュアップできるのではないかという狙いもありました。

加えて、環境政策室は立ち上げ1年目の若い組織です。だからこそ「やれる挑戦は何でもやろう!」というマインドで、海外へと視野を広げました。

転機となったのは、7月例会を共催したCLASS EARTH 株式会社 様とのご縁です。ネイチャーポジティブの推進に取り組まれている同社から、インドネシア・ジャカルタにある先進的な水族館“BXSea(ビーエックスシー)”をご紹介いただきました。

BXSeaは単なる観賞用の水族館ではなく、エンターテインメントを通して海洋保全や環境教育を学べるインタラクティブな施設です。このBXSeaの存在を知り、施設単体だけでなく現地で活動する青年会議所である“JCIバタビア”とも連携を図れないかと考えました。

折よく、2026年6月に国際的な機会であるAPICC*1やASPAC*2が開催されたため、JCIバタビアのアラーナ・アブドゥラ(Allana Abdullah)理事長たちに“ネイチャーポジティブ”というキーワードを用いて日本の活動を紹介しました。すると彼らが強く共感してくれ、「ぜひ一緒に取り組もう!」と意気投合したのです。

*1APICC(Asia Pacific International City Conference)
アジア太平洋地域の若手経済人リーダーたちが一堂に会し、都市が抱える共通課題を議論する場

*2ASPAC(Asia Pacific Area Conference)
アジア・太平洋地域のメンバーが数千人から1万人規模で集結する巨大カンファレンス

実はそれまで、JCIバタビアとは年始の挨拶は交わしているものの、事業連携の実績はありませんでした。しかし、この対話をきっかけに、専用のチャットグループが立ち上がり、バタビアのメンバーから、“写真を撮るだけで絶滅危惧度が判定できる自然観察アプリ”が即座に送られてくるなど、驚くほどのスピード感で動き出しました。

その熱気に背中を押される形で、会議からわずか2か月という速さで8月のジャカルタ現地訪問が決まったのです。

対話からわずか2か月で実現したJCIバタビア訪問。食事と会話を楽しむJCIバタビアと東京青年会議所のメンバーたち。

ー立ち上げ1年目にして海外展開まで広げられたスピード感には圧倒されます!APICCやASPACという国際交流の機会を活かし、対話から一気に事業連携の道筋を作られたのは本当に素晴らしいですね。

─2日間のジャカルタ訪問の様子と、現地の環境事情について教えてください。 

【閑野】
初日は私たちの推進運動を英語でプレゼンし、JCIバタビアが抱える課題について議論を重ねた後、環境教育に力を入れている水族館“BXSea”を視察。2日目は現地のマングローブ林へ足を運び、環境保護団体の方々と一緒に植林体験や生態系の観察をおこないました。

JCIバタビアと東京青年会議所とでプレゼン・議論をおこない、両国の自然環境について理解を深めました。

実際に現地へ行ってみて本当に驚いたのは、日本では想像もつかないような根深い問題が、暮らしのすぐ隣にあったことです。

例えば、ジャカルタの海には絶滅危惧種の魚が生息しているのですが、食卓によく上る大衆魚と見た目がそっくりなんです。そのため、絶滅危惧種だと知られないまま日常的に捕獲され、食べられてしまっている現状がありました。

仮に知っていたとしても、ジャカルタには平均月収が約3万円という厳しい経済状況があります。珍しい生き物がいれば、それが絶滅危惧種であっても、生きるために捕獲して売らざるを得ない社会的な貧困問題も重なっていました。

「これはアプリを作って解決できるような生易しいレベルではない。子どもたちへの教育を通して、根本的なマインドから変えていくしかない」と感じました。

また、現地で目にしたマングローブ林のすぐ近くには、高層ビル群がそびえ立っていました。「この景色は都市開発と自然の共存なのか、それとも破壊の象徴なのか……」と強く考えさせられましたね。

ネイチャーポジティブへのアプローチや優先順位は、国や地域の置かれた状況によってまったく異なるのだと、身をもって学びました。

ー日本では考えられない状況に驚きです。国や地域によって、ネイチャーポジティブへのアプローチや課題が大きく異なる理由が深く理解できました。

─ジャカルタ訪問の一番の成果を教えてください。また、参加したメンバーに変化はありましたか?

【閑野】
一番の成果は、両団体の理事長同士で“ネイチャーポジティブに共に取り組む”という共同宣言に署名・締結できたことです。

バタビアのメンバーはとにかく行動が速く、政府との繋がりも非常に強いのが印象的でした。政府レベルでの意思決定も早いので、私たちが日本で培ってきた“東京JCネイチャーポジティブツアー”のノウハウは、ジャカルタの地ですぐに活かされていくと思います。自分たちが作り上げた社会開発運動(JC運動)が、ジャカルタを起点にアジア、そして世界全体の課題を解決していく可能性を感じました。

署名を終え、朗らかに笑う外川理事長(右)とアラーナ・アブドゥラ理事長(左)。

また、今回の国際協働を通して、メンバーも大きく成長しました。ネイチャーポジティブという未知の領域に対し、自らの足を使って体当たりで向き合うことで、課題を見つけ出し、解決するための思考のフレームワークを身につけてもらえたと思っています。

最初は英語が得意ではなかったメンバーも、言語の壁を越えて現地のメンバーとすっかり打ち解けていました。“ネイチャーポジティブ”という共通のテーマがあるだけで、言語の壁を越えて深く繋がれる最高の国際交流になりましたね。10月末には、次年度へのバトンタッチも含めて再びジャカルタを訪問する予定です。

言語の壁を越えて打ち解けたJCIバタビアと東京青年会議所のメンバー。

この国際連携実績を踏まえ、今後の東京青年会議所の使命だと感じているのが“広報(発信)”です。

“東京青年会議所”と聞くと経済人の集まりというイメージが強く、環境運動に取り組む姿はまだ広く知られていません。だからこそ、私たちの確かな実績を、企業や行政へ継続して届けていくことが重要です。「CSR活動の一環として東京青年会議所と組みたい」と感じてくださるパートナーを増やし、この運動をさらに社会へ広げていきたいですね。

ー素晴らしい成果ですね。今後も東京青年会議所が旗振り役となって、世界の隅々にまでネイチャーポジティブの輪を広げていくのが楽しみです。

─最後に、この記事を読む方へメッセージをお願いします。

【閑野】
ネイチャーポジティブって、とても面白いですよ!この切り口を持って世界を見ると、日本や各国が抱える課題と、その裏にある経済や政治、歴史、社会構造といった背景が見えるようになるんです。

私自身、「絶滅危惧種の魚が食べられている」という現象の裏に、ジャカルタが抱える貧困という根深い背景があることを知りました。

今回の事業を通して、私にとってネイチャーポジティブは、単なる環境運動にとどまらず、本質的な課題を発見し、自分自身の視野を広げて人生を豊かにしてくれる最高のツールになりました。

ネイチャーポジティブは決して難しいものではありません。

皆さんもぜひ、身近な自然に少しだけ目を向け、「なぜこうなっているんだろう?」と面白がって疑問を持つところから、ネイチャーポジティブへの第一歩を踏み出してみてください!

ー貴重なお話をありがとうございました!

前例のないテーマであろうと、スケールの大きな挑戦であろうと、将来のために必要だと信じたなら果敢に突き進む。それこそが、東京青年会議所の真骨頂です。目的はたったひとつ、“より良い社会を実現するため”

ゼロから社会の仕組みを構築していく道のりは簡単ではありませんが、そこには大きなやりがいと面白さが広がっています。あなたもぜひ、私たちと一緒に新しい一歩を踏み出してみませんか?

インタビューにご協力いただいた理事の紹介

閑野 一樹

フロンティア法律事務所
弁護士

2018年東京青年会議所  入会(30歳)
2020年世田谷区委員会  副委員長
2021年世田谷区委員会  総括幹事
2023年拡大拡充委員会  総括幹事
2024年世田谷区委員会  副委員長
2025年世田谷区委員会  委員長(37歳)
2026年東京青年会議所  理事(38歳)
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